識別（同定、区別、判別、比較、差異、違い、検索、見分け方）検討室の第二弾は、みんなを悩ますキマダラヒカゲです。

　・サトキマダラヒカゲ　　Neope goschkevitschii 　Ménétriès, 1857
　・ヤマキマダラヒカゲ　　Neope niphonica 　Butler, 1881

学名に係わらず、サトは日本固有種で、ヤマの方はサハリンにもいるそうです。
これもヤマの方が山地性ですが、サトもしっかり標高の高い場所にもいるので、やっかいです。
この二種が違う種類だとよく見破ったものですよね。詳しくは、
　　高橋真弓「チョウ―富士川から日本列島へ (築地書館1979年) 」
を是非ご覧ください。

画像１☆　サトキマダラヒカゲ×ヤマキマダラヒカゲ識別のポイント
＊＊＊比較個体は両者とも2009.7.5　榛名山のトイレでトラップされていた個体。
　　　（画像クリックで拡大へ・・・以下同様です）

（因みに、翅形からサトは♂で、ヤマは♀と判断されますが、ここでは雌雄論は割愛します）
識別方法として、この内①の基部３点の並びが図鑑等でよく引き合いに出されますが、そのままこの３点の並びがほぼ直線上がサトで、角度がきついのがヤマと覚えると、たちまち行き詰まります。
実際には、この3点の角度のあるサトは多くいるからです。
逆に、ほぼ直線上にある場合は、まずサトと判断してよいことが多いようです。
学研標準図鑑2006では、「ヤマは、一番下の紋が外に大きく外れる」という慎重な表現になっています。これは第１、３点を結ぶ直線の二等分線を引くと、ヤマの場合中点が大きく第１点にかなり近いと覚えましょう。そうすると、ほぼ この二種が識別できます。
サトの場合ほぼ真ん中です。

②の外縁の部分的濃さのポイントも初見で判断するのにごく有効で、学研標準図鑑に指摘されています。
③、⑥、⑦の後翅眼状紋の微妙な違いも慣れてくると有用です。この内⑥は他の方のサイトに記載があったものです。
④の後翅中央の暗色斑は個体変異が多いですが、サト・ヤマで結構傾向が違うように思います。
⑤の前翅眼状紋間の明色斑も個体変異があるものの、二種での傾向差があります。

それぞれ、例外のような個体もあるので、①～⑥の総合的な判断が必要になる場合もあるようです。
二種の例示をしていきます。

◆サトキマダラヒカゲ
画像２☆　サト夏型　2008.8.9　埼玉県・嵐山市・・・初めてオオムラサキを見に行ったときのもの。

　サト夏型はこのように基部３点も大きくなり、識別も容易です。判別点①～⑥すべてＯＫです。

画像３☆　サト夏型　2008.8.12　山口県・秋吉台・・・よく知らずにオオウラギンヒョウモンを探しに行って空振り。

　これはサトにしては、⑥の眼状紋が大きいですが、その分黄色リングも大きくて⑦は健在です。　

画像４☆　サト　2009.7.20　長野県・浅間山系・・・初めてミヤマモンキを見たときに

　画像１の比較画像におけるサトも榛名山の高所にいた個体ですが、これも１千ｍ以上の標高の高い場所にいました。③が少し弱いですが、サトの特徴全開です。
高所では年一回の発生らしく、夏でも低地の春型のような模様を持つ基部３点です。

画像５☆　サト春型　2010.6.11　東京都・八王子市・・・住宅地に近い里で。

　基部３点の中間点が上点に寄っていますが、②～⑥の識別点でサトです。

◆ヤマキマダラヒカゲ
画像６☆　ヤマ　2008.6.7　福島県・甲子高原・・・記念すべきYODAの本種初見個体です。

　識別点④が明解でないですが、その他はヤマの特徴です。特に③⑥の眼状紋特徴が決定的ではないでしょうか。

画像７☆　ヤマ　2008.8.11　山口県・長野山緑地公園・・・08年のお盆の帰省に寄った場所です。

　④の後翅中央の斑紋は矩形とは言えないかもですが、サトのつぶれた三角形とは違います。
②の部分がサトのように濃い感じですが、微妙に違う感じの濃さ模様です。
①③⑥はキッチリとヤマ支持ですね。

画像８☆　ヤマ　2010.6.5　長野県・北アルプス系・・・クモツキに振られたときの個体です。

　①の基部３点のキンク度合いが緩く②の後翅外縁が少し目立ちますが、他の特徴でヤマです。

画像９☆　ヤマ・日光浴　2010.7.17　山梨県甲州市（標高1100ｍぐらい）・・・ヒメオオさんご教示の場所で

　①の基部３点だけだと判別に悩みますが、⑥の眼状紋の大きさはヤマのよう。
これはYODAが三角紙から取り出しのではなく、眼の前の欄干に飛び出してきて日光浴を始めました。キマダラヒカゲは決して日光浴や吸汁時に開翅しないのが頷けます。　

画像１０☆　ヤマ・口吻活動　2010.8.22　長野県松本市・・・ゴマシジミ探索時になつさんの手に止まったときの個体。

　④の矩形が綺麗に出ている個体です。

キマダラヒカゲの場合、翅表がなかなか撮影できないのが難点ですが、写真でも十分に模様の変化を楽しむことができていいですね。

◆追記
少しマニアックな →比較図Ⅱ も合わせてごらんください。